第39回ストレス学会のシンポジウムで発表した内容がストレス科学誌に掲載されました

academic outputs

第39回日本ストレス学会(2023年)のシンポジウムで発表した内容をもとに、就労者の過労自殺の特徴(全体像)についてまとめた論文が掲載されました。

要点

  • 日本における過労自殺の現状をまとめました。過去20年で労災補償(精神疾患)を申請する被災者の数は増加しており、そのうち過労自殺として認定される件数は90件/年です。
  • 過労自殺と長時間労働の関連について、国内外で行われたメタアナリシスの結果等を紹介して考察しました。
  • 自殺予防に向けた、サポートの重要性についてまとめました。

概要

日本の労働環境における深刻な問題の一つに、過労自殺があります。過労自殺とは、業務による過重な心理的負荷によって精神障害を発症し、最終的に自ら命を断ってしまう労災事案を指します。

過去20年間で、業務によって精神障害を発症し労災補償を申請する被災者の数は増加しており、過労自殺として認定される件数は年間約90件で横ばいです。本稿では、過労死等防止調査研究センターが実施した各種の研究を基に、日本における過労自殺の現況や関連する研究を紹介しました。

まずは、過労自殺の背景としての長時間労働について取り上げました。過労自殺事案を解析すると、精神障害の発症前1~2ヶ月間で労働時間が急増するケースが多いことがわかっています。そして長時間労働が生まれてしまう背景要因としては、人員減少や納期逼迫、繁忙期や新規事業の担当などが挙げられました。

また、自殺予防には医療サポートが重要であり、適切なタイミングで医療のサポートを受けられるようにするためには、被災者の周囲の気づきと適切なサポートが欠かせません。

今後、労働力不足が予想される中で、健康に働ける職場を実現する要求はさらに高まると考えられます。テレワークや副業・兼業の普及など新しい働き方が急速に広まる中で、求められる対策も常に変化していく可能性があります。

柔軟かつ継続した過労死防止対策が今後も求められるでしょう。


論文情報

掲載誌ストレス科学
論文タイトル日本の過労自殺の現況と関連要因
著者西村悠貴、吉川徹、高橋正也
引用情報西村悠貴, 吉川徹, & 高橋正也. (2024). 日本の過労自殺の現況と関連要因. ストレス科学, 39(1), 1–10.